「須藤あつ子とのコラボレーション」
この人のピアニストとしての腕前を疑う人はおそらくいないだろう。しかし、この人の作曲家としての側面を知る人間は意外に少ないのではないだろうか。
須藤あつ子は、言葉で語るより以上にピアノで語る人だ。鍵盤を叩くこの人の指から紡ぎ出される音たちは、本人がそれらに託そうとしたイメージやメッセージをいともたやすく超えて、聴く側の心にはるかに深く多くのものを響き渡らせてしまう。そのことに本人も戸惑っているようなふしがある。
その戸惑いには理由があるだろう。私の思うところ、ピアニストという人種は、自分が奏でるすべての音を自分のコントロール下に置きたがるきらいがある。作曲家にも同じようなタイプはいるだろう。しかし須藤あつ子の曲作りのスタイルを見ると、明らかに制御不能なものに突き動かされていると感じる。メロディで何かを表現しようと鍵盤の前に座ったとたんに、指が勝手に動くのだ。制御しきれないものに突き動かされてしまう作曲家としての資質と、それでも制御しようとするピアニストとしての性が、この人の中で常に葛藤している。
その緊張感が、作詞家としての私の蛇口を否応なくひねってしまう。彼女の曲を聴いたとたん、いわば言葉が垂れ流し状態になってしまうのだ。しかもその言葉は、私という井戸の底、深い暗がりから汲み上げられたものだと感じる。
 そのようにして彼女の曲に詞をつけた作品がすでに9作になる。彼女が望むなら、このコラボレーションは今後も続けていきたいと思っている。ちょっと怖い気もするが・・・。